素人院長の電撃戦
アメリア先生の宣戦布告から半年が過ぎようとしていた。
アメリア派は学院の辺境地域を占拠し続けていたが、大規模な戦闘は一切なく、おかしな膠着状態が続いていた。学院長としては世間への体面上、愚かな妹が音を上げるのを待っていたのだが、いい加減そうもいかなくなってきた。下手に生徒たちが親へ手紙でも書こうものなら、学院は即廃校だ。ここまで育て上げたこの寄宿学校は、何としても守らねばならない。そのためなら、妹や生徒の100人や200人など、どうなろうと大した話ではないのだ。
「仕方ありません。ジェームス、総攻撃です。ただし、失敗したら、おまえをクビにします」
「へ、へい、院長先生」
「閣下と呼びなさい、閣下と!何度言ったらわかるのです?」
「へ、へい、院長、か、閣下…で、作戦名は…?」
「へ?そ、そんなことはどうでもよろしい!ブラウでもタイフーンでも、好きになさい!」
とっさに何も思いつかなかった院長は、キンキン声で叱りつけた。
「よろしいですね?さ、行くのです。頼みましたよ」
言いたい放題で歩み去る痩せぎすの後ろ姿を見送り、モーリーと顔を見合わせるジェームス。腹立ち紛れに帽子を床に叩きつける。
「まったく、なんだってんだ、面倒ばかり押し付けて!自分のまいた種じゃねえか!」
「ホント、院長先生も院長先生だよ、でも給料アップがかかってんだから、頑張っとくれよ」
「おお!そうだな。それにとっとと終わらせりゃ、またセーラやベッキーをこき使えるしな」
「おやおや、あんたも随分と意地悪くなったねえ」
「むふふ、誰かさんのおかげだよ、ぐわっはっは!」
馬鹿笑いするジェームスであったが、士官候補生崩れだけあって、戦術家としての腕前はなかなかのものであった。強固な要塞線『マジノ線』を敷くアメリア派に対し、世界初の新戦法を準備していたのである。
5月10日、ジェームス率いる装甲集団と降下猟兵は、アルデンヌの森から奇襲攻撃を仕掛けて要塞線を突破した。モーリーの航空軍は空飛ぶ砲兵として側面支援だ。戦車と航空機、そして空挺部隊の集中使用という斬新な戦術の前に、大混乱に陥るアメリア派。ここに奇妙な戦争の時期はおわりを告げ、戦線は一気に拡大し始めたのであった。