世界名作劇場.net 小公女セーラ研究サイト:小公女30周年記念作品 セーラ萌ゆ【6】 特別寄宿生

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特別寄宿生

「どうやら終わったみたいね」

ラビニアさんは安楽椅子を揺らしつつ、天井を見上げた。ここは学院の一等地、特別寄宿生領内にある大邸宅だ。戦いが始まってからも、彼女は局外中立を保っていた。ミンチン学院自体は気に入っているので、退去するつもりはないが、バカ姉妹の揉め事に付き合う気もさらさらない。大体、ここヨーロッパでの紛争など、アメリカ人の私には関係の無いことなのだ。孤立主義を貫こう。慣れればこれほど楽な立場はない…

「セーラたち、辺境に追い詰められちゃったみたいよ」

「ねえラビニア、いつまでこうしてるの?早く何とかしないと、セーラたちやられちゃうよ」

ジェシーさんとガードルードさんが、ごちゃごちゃと何か言ってる。この二人は、開戦以来終始ラビニアさんにまとわりついている。別に呼んだつもりはないが、話し相手にはなるので置いてあげているのだ。まさかこのお屋敷を、ただで使わせることになるなんてね…

戦闘の終わった前線の記録写真を眺める。擱坐しているのは、アメリア派のマークを付けたルノー軽戦車。前大戦時の旧式戦車だ。

…こんな時代物まで引っ張り出してくるなんて。勝敗は見えたわね…しつこく協力を求めてくるミンチン院長もうっとうしいし、そろそろ態度を決めなきゃいけないかしら…

考え込む仕草を見せるラビニアさんの横では、取り巻き二人組が高価なお菓子を頬張り始めている。もちろん、タダ食いだ。

「はい、ひらひらひら~」

調子に乗ったガードルードさんが、食べかすや包み紙を床にばらまく。ちらりとそれを見やり、小さくため息をつく。

…やはりこの子達はこの程度か。情勢というものがまるで分かっていない。今は呼びつけるメイドなどいないのだ。そんなことをして、いったい誰が掃除すると思っているのだろう…

付き合う価値もない取り巻きへの腹立たしさよりも、掃除を言いつけたい相手がいないことへの物足りなさが、次第にラビニアさんの頭を占め始める。やがてそれは、悲しげな碧い目に豊かな黒髪を揺らす少女の姿として、はっきりと彼女の意識に入り込んできた。

…私には関係ないこと。あの愚かな学院長が大攻勢を仕掛けようが、捕らえたセーラをどう扱おうが、知ったことではない。絶対安全なこの特別寄宿生領で、高みの見物を決め込んでいればよいのだ。しかしこの心地よい中立感は、遠からず、いま脳裏に浮かぶ少女との永遠の別れをもたらすだろう。それも私の目の前で…

その現実に自分が耐えられるのかどうか、もう一人の自分に問いかけるのは、プライドの高い彼女には耐え難いことだった…

一度目を伏せたラビニアさんは、ゆっくりとした足取りで壁面の無線機に向かった。特別寄宿生たるもの、この部屋にない物など、ない。アメリカ本国とのホットラインもその一つだ。いつもセーラさんに念入りにお手入れさせていた無線機も、今はうっすらとほこりをかぶっている。

「別に助けてあげるわけじゃない。またこの無線機の掃除をさせたいだけよ。そう、それだけ…」

自分に言い訳しつつ、喉の調子を整える。これから甘え声を出さねばならないので、ちょっとしたコツが必要なのだ。

…この私にこんな真似をさせるなんて…一向にへこたれないあの様子といい、やっぱりあの子は許せないわ♪

不機嫌な、それでいて今にも歌いだしそうな表情のラビニアさんは、小さく息を吸い込むと、無線機に涼やかな声を吹き込んだ。

「お父様をお願い」

~CONTENTS~
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