アメリア先生出撃
廊下を進みながら、アメリア先生はまだ興奮の中にあった。息遣いも荒い。
…とうとう言ってしまったわ。もう後には引けない。やるだけよ。私がこの学院を乗っ取って…いや、改革させていただくわ。ああ、そうなれば収入は全て私のものね。フランス製の香水入り石鹸も、絹の靴下も、流行りのお帽子だって何~でも買えますわ。でも、そんなに使ったら足りないかしら?やっぱり、ベッキーのお給料はちょっとだけ減らそうかしらねえ…
結局、似た者姉妹であった。
「まぁ、ちょうど良かったわ、セーラさんにベッキーも!」
教室をお掃除中だったふたりは、飛び込んできたアメリア先生に驚いた。もとより、走る先生など見たこともない。目を丸くする少女たちに、先生は熱弁を振るい始める。院長の横暴の数々・自らの理想・欲しい物リスト…
「そういうわけなの。さあ、共に行きましょう、セーラさん。それにベッキー、あなたにも素晴らしい未来が開こうとしているのよ」
勇ましく立ちあがったアメリア先生ではあったが、始めからセーラさんの才覚を当てにしていたのだ。
事情を聞いてしかし、セーラさんは瞳を伏せた。気品ある表情に広がる憂いの色。
…私たちのため…ありがたいお話だわ。確かに先生のおっしゃるとおりにすれば、この辛い毎日を終わらせられるかもしれない。だけど、戦いになれば誰もが傷つくわ。そこには勝者も敗者もない、残るのは悲しみだけ。でも今のアメリア先生は、院長先生へのお気持ちが強すぎて、物事の道理が見えなくなっておられるのね…
学院メイドとして、社会の底辺を生きるという現実を味わっているセーラさんは、既に十分大人であった。懸命に思いを巡らせる彼女の内心などお構いなく、アメリア先生が決断を迫る。
「セ、セーラさん?あなたまさか、一緒に来て下さるわよねぇ?じゃないと私、お姉さまに…」
早くも決意が揺らぎかけているアメリア先生から目をそらし、唇をかむ。
…本当は嫌だ。でもここで自分がお断りしてしまったら、学院はどうなるだろう。私だって幸せは欲しいけど、他にもっと大事な物があるわ。逃げてはいけない…今は一刻も早く、戦いを終わらせることが大事…
心配げな表情のベッキーさんに微笑みかけると、セーラさんは心を決めた。