世界名作劇場.net 小公女セーラ研究サイト:小公女30周年記念作品 セーラ萌ゆ【3】 ジェームスの過去

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ジェームスの過去

学院長マリア・ミンチンの怒りは頂点に達していた。おとなしいだけが取り柄と思っていた妹の不意打ちを受け、無様な所を見せてしまった。強権を持って鳴らすこのワタクシが、弱みなど見せてはならないのである。

「うぬう…あの子はしっかりとしつけ直す必要があります。この私の手で!」

疼き始めた偏頭痛にこめかみを押さえ、彼女はいらついた声で叫んだ。そこに駆け込んできたのは、使用人夫婦ジェームスとモーリーである。

「た、大変です院長先生、ア、アメリア先生が…」

「何です?ノックもせずに!今度同じことをしたらお前をクビにします!」

「へ、へえ、それがそのぅ…」

言葉につまるジェームスの向こうで、妹の少し間延びした声が聞こえ始めていた。

♪チリ~ン、チリ~ン♪

「みなさ~ん、宣戦布告のお時間ですよ~。集まってくださぁ~い」

チャイム代わりのベルを鳴らしつつ、廊下を練り歩いているようだ。

…あ、あの間抜け!姉妹の内輪揉めを、わざわざ公にするようなマネを…学院の経営に響いたらどうするのです?!

憤怒のあまり、目前に突っ立つジェームスの太鼓腹をぶっ叩きたい衝動を何とか抑え、院長は平静を装った。事情を悟られてはならない。

「放っておきなさい。きっとミートパイの食べすぎでしょう。どうせ、すぐに泣きついてくるに決まっています。」

「そ、それが院長先生、生徒さんたちが…」

困惑顔のモーリーに余裕ある笑顔を向け、院長は優しく言った。

「茶番です。間違ってついて行くのは、セーラとベッキー、それにシーザーぐらいでしょう。」

「い、いえ、もう生徒さんたちはみんな行っちまいました。デュファルジュ先生も…」

「なんですって??!」

空気を裂く金切り声に、部屋のすみっこにいたシーザーが飛び上がる。事態は予想以上に深刻なようである。

…んくうぅ…よろしい、あちらがその気なら、叩きのめすまでのこと。身の程知らずの成れの果てを、たっぷりと教えてやりましょう。そしてそのあとはセーラと二人、一生この学院で無給の教師として働くのです。ふっふっふ…

なぜかサディスティックな喜びを覚えた院長は、緩んだ頬を引き締めると、使用人夫婦へと向き直った。もともと権威志向と支配欲の強さから、苦学生の頃から鋼鉄ミンチンの異名をとったほどである。わが帝国への抵抗、許すまじ。喉を締め、意識的に硬い声を出す。

「お前たち、戦いの時がやってきました。」

「へ?」

突然の理論の飛躍について行けず、口を半開きにする二人に、院長は高らかに宣言した。

「本日より当学院は、SM女子帝国学院に改名します。通称はSM女帝院(えすえむにょていいん)、そしてジェームス、お前には装甲集団を、モーリーにはルフトバッフェを与えます。我が帝国のために働きなさい。」

あっけにとられるジェームス。吹き出しそうなのを必死にこらえ、頭をめぐらす。

…な、なんて名前の学校だ。絶対勘違いされるぞ…それに、これだけ人を安月給で働かせといて、裏でこっそり金のかかる軍備拡張とは…

そこまで思い、ふと気づいて尋ねる。

「あのう、そのSMってのは…?」

「シュペール・ミンチン!つまり超ミンチンです。1000年続く名門校となることでしょう」

苦手なフランス語をあえて使うところに、彼女のコンプレックスが見え隠れしていたが、それを口にするほどジェームスは愚かではなかった。料理法よりも、処世術の方が大事なのだ。雇い主の機嫌を損ねれば、明日から夫婦二人、食べてゆけなくなる。生きてゆくためなら、コックだろうが戦車兵大将だろうが、なんでもやってやろうじゃねえか!!

腹を決めた彼は、にわかにかかとを鳴らして敬礼した。実はジェームス氏、隠れ軍事マニアだったのだ。料理長は世を忍ぶ仮の姿。将来の夢は、戦車隊を率いて東ヨーロッパ平原を駆け巡ることだったのである。そして彼の脳裏に蘇る、若き日の苦い記憶…

イギリス陸軍士官学校でエリート軍人への道を歩んでいた彼は、有り余る食欲を抑えきれず、つい食事の量に不満を漏らして全てを失ったのだ。士官学校を追放され、流れ流れてたどり着いた、ミンチン学院の半地下厨房…

「このまま終わる俺じゃねぇ…」

そんな大人になりきれない中年男に今、最高のおもちゃが与えられたのだった。

~CONTENTS~
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