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創作ストーリー番外編。春を待つマロクール村で出会うのは・・・

春まだ浅し
PROLOGUE

フランス、パリから150km。冬のマロクール。あの感動的な雪の日から、2年の歳月が流れていました。優秀な品質と手厚い福利厚生で知られるパンダボアヌ工場は、いまや国内最大級の工業地帯へと発展し、経済の要衝として栄えていました。そんなマロクール勃興の先頭にいるのは、ペリーヌ・パンダボアヌさん。祖父ビルフラン氏を助け、経営にも関わっていた彼女でしたが、終始控えめなその言動は、工場の安定・発展に大きく寄与していました。大工場主の孫、という立場ではなく、優秀な秘書として実務に徹していたのです。

彼女が特に力を注いだのは、労働環境の改善でした。これまでにもペリーヌさんの発案で、社宅・保育園・病院・娯楽施設などが作られ、一層マロクールの評価を高めていたのでした。そして、忙しい毎日を送るペリーヌさんの次なる目標は、学校の整備でした。なぜなら、工業先進国イギリスとの取引が拡大するにつれ、優秀な通訳の育成が急務となっていたからです。

『でもおじいさま、今のままでは、英語を教える先生が足りませんわ』
『うむ、いくらお前でも、一人で全部をこなすのは難しいからな。しかし、英語とフランス語がともに堪能な人材となると・・・』
『どなたか、いらっしゃらないでしょうか』

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すでにペリーヌさんは、そのバイリンガル能力を活かして、臨時に英語の授業を担当していましたが、ビルフラン氏も言う通り、一人ではとてもまかないきれません。それにビルフラン氏は、ゆくゆくはペリーヌさんを工場の社長に据えるつもりでしたので、いつまでも代用教師をさせておくつもりもなかったのです。そして事態を見た彼は、遂に一人の男性の顔を思い出します。

『おお、やつだ、やつを忘れていたぞ』
『まあ、おじいさま、どなたかお心あたりがありまして?』
『うむ、わしを除いて誰もやつに気づかなかったとは、よくよく間抜けな人間が多かったんだな。セバスチャン!フィリップス弁護士をお呼びしてくれ、今すぐにだ!』

新任教師きたる
SCENE 1

『お久しぶりです。ビルフラン様』
『おお、君とは何年ぶりになるかな。ともかく、遠いところをよく来てくれた』

ここは工場の社長室。ビルフラン氏の招請を受け、新たな英語教師がやって来たのでした。

『君は確か、長いことイギリスに行っていたのだったな』
『はい、あちらで教師を少々・・・色々ありまして帰国し、パリでくすぶっておったのです』
『故郷の南フランスに発つ前でよかった。そうなっていたら、君を探し出すのにもっと手間取っていただろう』
『はい、私にとっても、ありがたいお話で・・・』

穏やかに答えるその初老の紳士は、同席したペリーヌさんには、大変信頼のおける人物に見受けられました。・・・おじいさまとは、大学校の先輩後輩の間柄とお聞きしたけれど、優しそうで、きっと子供たちに好かれる人だわ・・・好感を抱いたペリーヌさんに対し、新しい英語教師の彼もまた、似たような思いを感じていました。・・・聡明そうな子だ。きっと誰からも好かれているのだろう。フランス人のようだが、黒い瞳が印象的だな・・・そして彼の思いは、さらにある別の少女の面差しへと流れてゆきました。・・・ああ、あの子は今頃・・・そんな彼の思考を、先輩の声が遮ります。

『・・・というわけだ。ここマロクールで教壇に立つ傍ら、さらに優秀な人材を紹介してくれんか。英仏2カ国語ができる人材は、いくらでも欲しいのだ』
『はい、分かりました。いくつかあたってみましょう。いいお返事ができると思います』
『そうか!頼んだぞ!』

素直に喜ぶビルフラン氏の様子に、新任教師の彼は少し戸惑いも感じました。以前のビルフラン氏は、もっと頑固で近寄り難く、気難しい人物だったはず・・・どうやら、この子が先輩を変えたようじゃな・・・彼は、脇に静かに控える少女を見て、口を開きました。

『ところでビルフラン様。こちらのお嬢さんは、秘書か何かでしょうか』
『おお、忘れておったぞ!この子はわしの可愛い孫、ペリーヌ・パンダボワヌじゃ』
『は?あなたにお孫さんが・・・?』

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驚く彼に、ビルフラン氏は堰を切ったように話し始めました。ペリーヌさんがマロクールに来て、今日に至る一部始終を。孫として接するようになってから、唯一ペリーヌさんが困っているのが、祖父のこの話癖でした。誰彼構わず、ペリーヌさんの立身出世ストーリーを全部話してしまうのです。おかげで今では、工場中に、写真師としての長旅から小屋での生活、オーレリィの日々まで知れ渡ってしまいました。

『お、おじいさま、それはもう・・・』
『いや、それでな、この子が麻の不良品をひと目で見分けてなあ・・・それに、靴から下着、それに蒸気機関まで、必要なものは全部一人で作ったというんじゃ。それを聞いてわしは、一層この子が好きになってな・・・』

残念ながら今日も、長話は止まりそうにありません・・・

ひとつの悲しみ
SCENE 2

『君は大変な苦労をしてきたようじゃのう。なんという意志の強い娘さんだろう!』
『いえ、それは褒めすぎです』
『その年で謙遜を知っているとは、なおよろしい』

新任の英語教師に構内を案内しての道すがら。ペリーヌさんは、彼の下で、教師を続けつつ、さらに英語力を磨くことになりました。祖父の長話によって、彼もまた、ペリーヌさんを万能な驚くべき天才少女と思い込んでしまったようです・・・でも、この方となら、とてもいい関係を築けると思うわ・・・

『先生は、イギリスでも学校で教えていらしたんですか?』
『ああ、そうじゃよ。ちょうど一番年上の生徒が君ぐらいじゃった。ところで君は、将来何になりたいのかね』
『先生です』

問われてペリーヌさんは、思わず本音を口にしてしまいました。まだ誰にも言ったことはありません。工場を継いでもらいたがっているおじいさまの気持ちを思うと、簡単には話せないことでした。

『ほう、先生に・・・同じことを言っていた子をもうひとり、わしは知っておるよ』
『まあ、その方は・・・?』

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言いかけてしかし、ペリーヌさんは途中で言葉を飲み込んでしまいました。新任英語教師の横顔に、ひどく悲しげな影が差すのを見てとったからです。黙り込んでしまった彼に、ペリーヌさんはそっと寄り添って歩くのでした。かつての長旅や、通訳・秘書の経験から、知っていたからです。こんな表情を見せる人に、かける言葉はない、ということを・・・悲しみを癒すには、ただ時の流れに身を任せるしかないのです。

新任教師の想い
SCENE 3

マロクールでの日々は、本当に素晴らしいものでした。最新の工場施設と、そこで働く生き生きとした人々の姿。意欲的に学ぼうとする生徒たち。すべてが前向きで、フランスでも有数の工業地帯になりつつある勢いが感じられました。・・・このまま、ここで生涯を教育に捧げるのも悪くはないか・・・本気でそう思わせるほどの何かが、今のマロクール村にはありました。しかし、今という時間が充実すればするほど、彼は思い出さずにはいられないのでした。ロンドンに散った、小さな花のことを。

『あの時のわたしの判断は、間違っていたのか・・・』

思えば思うほどに、自責の念がこみ上げてきます。そして気付いたのでした。その後を確かめたわけではない、ということに。何もしてあげられなかった自分を責めるあまり、肝心なことを見落としていたのです。そこまで思いが至ると、もう居ても立ってもいられません・・・すぐに確かめねば・・・年甲斐もなく大声で、彼は最も優秀な生徒兼後輩教師の名を呼びました。

『ペリーヌ君、ペリーヌ君はおらんかね?!電報局にこれを・・・!』

ふたつの花
EPILOGUE

問い合わせに対するロンドンからの電信は、驚くべき内容でした。そこには、彼の予想を裏切る、とても喜ばしい事実が記されていたのです。そして、直ちに打電された返信の後、2週間が経ちました。

『どんな方か、お会いするのが楽しみですわ』
『ペリーヌ君、彼女とはきっと、いい友達になれるじゃろう。公私を問わずね』
『先生がそうおっしゃるなら、きっとそうなりますわ』

マロクール村最寄りのピキニ駅のホーム。ペリーヌさんたちは、ある大切な旅人を待っているのでした。村にとって初めての、留学生兼英語教師となる人物を。季節はまもなく春。今頃は、あの狩猟小屋も、新たな生命の息吹に包まれているに違いありません。頬を撫でる微風も、これからやってくる旅人の想いを運んでか、爽やかさを増したようです。やがて、甲高い汽笛とともに汽車が滑り込んできました。いまや有力都市になりつつあったマロクール村へ向かう人は多く、ホームはたちまち大混雑です・・・

ようやく人波が引き、汽車も去って静けさを取り戻したホームに、一人佇む少女の姿がありました。大きな旅行かばんを重そうに抱えて、ゆっくりと歩み寄ってきた彼女はまず、ペリーヌさんの傍らに立つ人物に、優雅な挨拶をしました。

『大変ご無沙汰しております。デュファルジュ先生・・・』

そして交わる、碧い瞳と黒い瞳・・・この方がセーラ・クルー・・・自分よりも小柄な彼女に、ペリーヌさんはなぜか、亡き母マリさんを感じました。そして、優しく微笑む彼女とは、ずっと昔からの親友であったように思えてくるのでした。

ペリーヌさんにとって3度目のマロクールの春は、もうすぐそこまで来ています。

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