『世界名作劇場 小公女セーラ』あったかも知れない、こんなお話。
最終回第46話から約2年後。美しく咲こうとしている小さな花。
セーラ・クルーさん13歳。風薫る5月のロンドン・・・
新生の学院と共に、新たな人生を歩き始めたセーラさん。その向かう先はどこなのでしょうか。
アメリア女子学院
in 1888 London
セーラさんが学院に復帰してから2年が経とうとしていました。その間、彼女自身も、取り巻く環境にも大きな変化がありました。
セーラさんはクリスフォード邸から通学していましたが、お隣なのでしばしば、寄宿しているみんなよりも早く登校していました。
「セーラ、あなたにはいつも驚かされるわ。だって毎朝、起きていったら、あなたもういるんですもの」
アーメンガードさんの言葉に、セーラさんはちょっと済まなそうに答えます。
「ごめんなさいね、アーメンガード。別に驚かせるつもりはないんだけど・・・」
「ううん、違うのセーラ、みんな感心しているのよ」
「これからはもっと気をつけるわね・・・」
こんな会話を交わすセーラさんでしたが、もっとたくさん勉強がしたくて、結局は早く来てしまうのでした。
学院も大きく変わりました。アメリア先生が院長となり、『アメリアロンドン女子学院』として、新たなスタートを切っていたのです。生徒の自主裁量に委ねる場面が増え、課外活動も多くなりました。また、食事の配膳など、基本的な日常の行動は生徒自らが行うことになり、メイドさんたちの負担軽減が図られました。
「うちの子にお給仕をさせるなんて、とんでもありませんわ」
当初、反発していた一部の保護者たちも、一度参観に訪れると、もう何も言いませんでした。生徒たちは皆、楽しそうで生き生きとしていますし、学院の改革が正しい方向へ向かっているのは明らかだったからです。
また、さらに見る人誰をも納得させたのは、代表生徒のセーラさんの姿でした。
ラビニアさんがアメリカへ帰国したあと、推されて代表になったセーラさんは、どんな役目も進んでこなし、みんなのために力を尽くしていましたが、その立場をひけらかすようなことは決してありませんでした。また、誰とでも分け隔てなく接し、目上の方には控えめに、同級生とは対等に、そして年少組には優しく、まさにプリンセスらしい立派な振る舞いに徹していたのです。
小さな先生
in 1888 London
見知ったクラスメートたちは卒業してゆき、いまや学院の生徒の半数以上は、セーラさんがメイドであった事実を知りません。このように学院の生徒数が増えてきたのは、アメリア院長先生の経営努力によるところが大きかったのですが、セーラさんもまた、そんな学院の一翼を早くも担っていました。
彼女は既に、学院で求められる知識や学力を十分に備え、代表生徒として責任を果たす傍ら、年少組の先生としても活躍していたのです。
その授業は大好評で、新入生の獲得に大いに貢献していたのでした。
賑わう年少組で頭角を現してきたのは、なんとロッティさんでした。
「セーラママ、もっと教えて」
「まあ、ロッティったら。お勉強熱心ね」
「うん、だってセーラママのお話し、とっても面白いんだもん」
セーラさんも驚くほどの知識欲で、みるみる力を付けていくロッティさんは、もはや他の先生方も一目置くほどの存在でした。
「えらいわねぇ、ロッティ。あなた次の代表生徒候補だわねえ」
「うん、私セーラママみたいに頑張る!」
院長先生に言われて、屈託なく答えるロッティさんなのでした。
また、アメリア新院長は、何かとセーラさんを頼りにしました。院長先生としても、かつてセーラさんを助けてあげられなかった苦い経験から、伸び伸びと羽ばたこうとしている今のセーラさんの様子が、一層眩しく映るのでした。
「セーラさん、あなた本当によくやってくれているわ。ありがとねえ」
「はい、有難うございます、院長先生!」
「あのお、セーラさん?その院長先生っていうのだけはやめて下さらない?なんだか私、お姉さまと・・・」
「あ、はい!ごめんなさい、院長先生・・・あっ・・」
優しくマイペースなアメリア院長と代表生徒のセーラさんは、とても上手くいっていました。そんな先生に褒められると、もっとやる気が湧いてくるのです。
市長夫人の支援
in 1888 London
こうした、学院でのセーラさんの活躍・成長を喜んでくれる人が、学外にもいました。市長夫人です。
彼女は、セーラさんが学院に転入した当時から高く評価してくれていた人物です。その後、セーラさんがメイドとして苦労した時期を市長夫人は知りませんでしたが、学院に対してずっと、物心両面での支援を続けてくれていたのです。
セーラさんが復学後、それまでの経緯を市長夫人に訴えるべきだ、という声が生徒さんの一部から上がりましたが、セーラさんは答えるのでした。
「そんなことをしても誰も喜ばないわ。それよりも、もっと前向きなことをしましょう。そう、明日がきっと今日よりもいい日になるように」
耐え難い経験をしたセーラさんは、年齢以上に既に大人でした。
市長夫人は時折学院を訪ねてきては、セーラさん個人にも高価な書籍や地図などをくれました。それらはとてもありがたいものではありましたが、感謝しつつもセーラさんは話すのでした。
「ミスセーラ、あなたは本当に素晴らしいわ。立ち振る舞いといい、フランス語といい、もうどこに出ても恥ずかしくないリトルプリンセスです」
「有難うございます、市長夫人。でも・・・」
珍しく言いよどむセーラさんを、市長夫人が促します。
「何です?セーラさん。なんでも言ってご覧なさい」
「はい。他にも手助けを待つ苦しんでいる子供や人々もいると思うのですが・・・」
かつての自分自身のメイド体験や、ロンドンの下町生活を垣間見たことで、新たな価値観がセーラさんの中に芽生えていたのでした。自分の幸せを求めるなら、周りの人々の幸せにも目を向けるべきという想いが・・・
セーラさんの言葉を聞き、感動した市長夫人は、さらなる援助を約束してくれるのでした。
メイポールに届いた手紙
in 1888 London
進歩的な学校として、アメリア女子学院の名は、次第に世間に広まってゆきました。それと同時に、小さな先生セーラさんも、街で評判になります。その活躍ぶりは、やがて市長夫人を通して王室にまで伝わるほどでした。
そんな5月のメイポール祭の日、学院に一通のお手紙が届けられたのです。王室からセーラさんに宛てた、宮中晩餐会への招待状でした。
「あら、まあ、どうしましょう?ねえ、セーラさん」
すっかりうろたえた院長先生は、ただ驚くばかり。セーラさんもびっくりです。
「あなた以外にも1名付き添い可ってあるけど、誰か心当たりはいらして?」
「え?それは院長先生が・・・」
「い、いや、ダメ、ダメですよ、私は・・・」
ますます慌てる院長先生。こうした大舞台は本当に苦手なのです。そんな先生の様子を見て、セーラさんはあることを思いつきます。
「それでは先生、私が決めてもよろしいでしょうか・・・」
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