戦車道全国大会優勝から2週間。つかの間の休息を楽しむ大洗女子学園チームのもとに、とんでもない練習試合のお話が!!!その対戦相手とは?そして彼女たちは、無事にこの危機をクリアできるのか?
「何だ、これは?」
分厚い冊子をデスクに放ると、機甲大隊長ヒギンズ中佐は不機嫌に言った。
「はっ!日本の高等学校で行われている、戦車道であります」
副隊長のボイントン少佐が答える。
「Sensyado?知らんな・・・こりゃ、単なるハイスクールのクラブアクティビティだろう?」
全く興味もわかず、中佐は気のない返事をした。
「なぜ我が合衆国軍が、そんな素人の相手をしなければならんのだ?」
「ですが中佐殿、文部科学省からの正式要請であります。それに、日本はトモダチであります」
「とにかくだ、こんなお遊びに付き合っとる暇はない。以上だ」
「はっ!日本語ではこのような対応を、トモダチガイがない、と言うそうであります」
「マイガッ!」
生真面目に答える副隊長を睨んで、ヒギンズ中佐は吐き捨てた。
「仕方あるまい。ではポンコツの予備車両で適当にあやして(to baby)おけ。指揮は君に任せる」
「しょ、小官が、でありますか・・・?」
「どうした?たかがスクールボーイ相手に、歴戦の貴官がためらう理由などあるまい」
やけに歯切れの悪い副隊長を、中佐は嫌味半分でからかった。
「い、いえ・・・相手はその、スクールガールなのであります」
「ホワット?!ジャ、ジャパニーズ・ジョシコーセー!!な、なぜそれを先に言わんのか?!」
上官の豹変ぶりに、ボイントン少佐は驚愕した。
「はっ!申し訳ありません!!」
軍隊生活で培ってきた保身本能が働き、反射的に踵を合わせて謝罪する。
「おいっ!指揮官はどんなメイドさん、じゃなかった、リトルガールだ?写真はないのか!!」
襲いかからんばかりの勢いで、中佐が畳み掛ける。
「かりにも同盟国の大切なお嬢様方だ。丁重におもてなしせねばならんからな!!ぐふっ ♥」
「はっ!これがコマンダー ミホ ニシズミ 戦車道のエリート家系出身だそうであります」
「M O E~~~~~~!!!」
少佐が差し出した写真の少女を見て、ヒギンズ中佐は雄叫びを上げた。
「は?」
微妙な日本語表現がわからない少佐は、妙な身悶えをする上官を、奇異の目で見つめた。
「い、いや、何でもない・・・」
慌てて取り繕うと、ヒギンズ中佐は下令した。
「よし!直ちに第1機甲師団と随伴する自動車化歩兵師団を招集せよ!指揮は私がとる!」
にわかにやる気になった中佐は、鼻息も荒く宣言した。
「作戦名はデザートフォックス、砂漠のキツネだ!」
「ち、中佐殿が?先ほど小官に指揮を任せると・・・それに会場は北海道の雪原で・・・」
「シット!相手は生足の現役女子高生だぞ?貴様、千載一遇のこのチャンスを邪魔する気かっ!」
「ま、まさか中佐殿、ロ、ロリ・・・」
ある結論に思い至り、ボイントン少佐は戦慄したが、それを最後まで言い切ることはできなかった。
「シャラーップ!!土手っ腹にHE弾をぶち込まれたくなかったら、すぐ部隊編成にかかれ!!」
「ア、 アイアイサー!!直ちに部隊編成にかかります!」
全国制覇から2週間。まったりとくつろぐみんなを前に、みほさんがブリーフィングしています。
「というわけで、練習試合をすることになりました」
「おお、今度はアメリカ陸軍が相手か」
「パットン戦車軍団の末裔と対戦できるなんて、夢みたいですぅ」
「チュニジア戦線の二の舞を演じさせてやるぜよ」
みんな、チームワークにも自信が出てきて、言いたい放題です。しかし、浮かない顔の西住隊長。
「みほ、どうしたの?」
「西住殿?」
「う、うん、この試合ね、相手はM1エイブラムス中戦車に、ブラッドレー歩兵戦闘車で・・・」
「ええっ!?」
「それって思いっきり現用車両じゃないですか?」
「ずる~い!」
さすがの大洗女子学園でも、ちょっと相手が悪すぎるようです。
「よく戦車道連盟が許可しましたわね・・・」
「戦車道の普及発展と、国際交流のためらしいんだけど・・・」
「どうやってそんな相手に勝つの・・・グスッ」
「泣くな!バレー部復活のその日まで!」
またもや皆さん、大騒ぎです。
「西住!全国大会優勝校として、無様な戦いはできんぞ。どうする?」
「そこは・・・戦術と腕、かな・・・」
サラリと言ってのける、みほさん。
「しかし、相手の情報はあるのか」
「うん。戦車の台数では、私たちのざっと10倍、ってとこ・・・それと・・・」
「なんだ、早く言え」
促されて、みほさんはサラリと衝撃的な情報を告げました。
「えっと・・・指揮官はロリコンの中佐さんだそうなので、各車十分警戒してください」
少女たちに走る緊張。
「なんと・・・10倍の敵、ですか・・・」
「数では最初から勝負にならんぜよ」
「至近距離で履帯を狙えば・・・」
「こそこそ作戦とモクモク作戦、おちょくり作戦を並用しようよ」
「それよりみなさん、相手指揮官の件の方が・・・」
ざわつく各チームを励ますみほさん。
「ルールはフラッグ戦だから、戦力を集中すれば大丈夫!諦めたら負けなんです。それに・・・」
自信満々の笑顔で、みほさんは続けました。
「あまりに戦力差がありすぎる、ということで、今回私達にも誘導式徹甲弾の使用が許可されたの」
「西住殿、それってまさか・・・」
「うん、いわゆる、みさいる、かな・・・エヘッ」
そう言うと、みほさんは愛らしく微笑んだのでした。
「で、隊長、作戦名は?」
再び満面の笑みを浮かべるみほさん。
「えっと・・・乙女の目覚め作戦・・・はどうかな?」
「よし、それで決まりだな。締めろ、西住」
「が、頑張りましょう!」
「お~!!」(全員)
遂に北海道の十勝演習場に展開した、米国第1機甲師団第14騎兵連隊A大隊。指揮するヒギンズ中佐は、既に勝ったあとのことばかり考えていましたが、そうもうまく事は運ぶのでしょうか・・・?事情を何も知らされていない将兵たちは、通常の実弾訓練だと思っているようですが・・・