『世界名作劇場 小公女セーラ』は、約1年間かけて、毎週1回日曜日(19:30~19:55)に、全46話が放送されました。現在の感覚からすると、かなりの贅沢な編成です。内容もそれにふさわしく、細部までよく作りこまれていますが、うち2箇所、語り足りないかな、と思われる部分があります。このページでは、その部分に光を当ててみようと思います。
まず1箇所目。それは、第42話と43話の間です。
ここでは、セーラさんが学院を追い出されてピーター少年のおうちに身を寄せてから、アメリア先生が迎えに来るまでの経緯が抜けています。彼女がマッチ売りをしていたことは明らかですが、下町の庶民としての生活や、その間、彼女の心の動きはどうなっていたのかを描くのに、やはり1話分欲しいところです。あるいは、語り過ぎずに見る人の解釈に委ねたのかもしれませんが、丁寧な描写を続けてきた本作品にしては、やや急いだ感もあります。
この点に関しては、本放送時(1985年1月~12月)の終盤11月に、番組編成の関係で3週間連続放送休止になったという事実があります。もしかすると、年内で番組を終了させるため、制作サイドが放送回をいくつか省略した可能性も考えられます。いずれにしても、セーラさんたちには関係の無いことですが…
そこで、幻の42.5話があったなら、と仮定して、そのあらすじを再現してみようと思います。よろしければ、この無謀な企画にお付き合いください。
期間設定について:
作中では、第42話でセーラさんが学院を去ってすぐ、ミンチン院長がアメリア先生にセーラさんの捜索を指示していますし、第43話では「ずいぶんと探すのに手間取らせてくれた」という趣旨の発言もあります。また、連れ戻されたセーラさんを見て、アーメンガードさんが「あなたのことがずっと心配で…」とも言っていますので、この間は2,3日程度ではないと思われます。また、天候も晩秋~初冬の木枯らしから、雪の降り始め、本降り、そして大雪へ、と移り変わり、最後は雪が降りやんでいます。以上の点から、セーラさんがピーター家で過ごしたのは、最大で2週間弱であったと推測しました。
次回予告>>>燃え上がる火の手から逃れた私は、ついに学院を去ることになります。新たな生活へと踏み出した私が、ロンドンの下町で見たものとは?次回、小公女セーラ『ロンドンのマッチ売り少女』ご期待下さい!
ミンチン院長に放火の濡れ衣を着せられ、暴力まで受けて追放を言い渡されたセーラさん。胸に咲く小さな花がある限り誇りは失うまいと、遂に自ら学院を後にします。行くあてもない彼女を救ったのは、街の少年ピーター君でした。彼のおうちに身を寄せることになったセーラさんは、初めて広い世間というものを垣間見ます。
そこで彼女が見たものとは…
新しい生活
第42.5話
ロンドンの下町。セーラさんには知らないことだらけです。そして、ピーター一家との生活が始まりました。初めは彼らも遠慮から、何かとセーラさんを特別扱いしようとします。男の子しか育てたことがないうえ、セーラさんの身の上の変化も知るだけに、純朴な彼らは距離感をつかみかねていたのでした。
「お嬢様、何も別に働かなくたっていいんですよ」(ピーター少年)
「汚い所ですが、どうか楽にしてください。お嬢さん一人ぐらい、食べるのにご不自由はさせません」(お父さん)
「そんなに無理をなさらなくても・・・」(お母さん)
そんな彼らの優しさが、却ってセーラさんを苦しめます。私がお世話になることで、みなさんに余計な迷惑をかけてはいけないわ・・・と。そして、気を遣うピーター家の人々に、セーラさんは答えるのでした。
「私、決心したんです。なんとか一人で生きていこうって。だからどうか私にも、皆さんと同じような暮らしをさせてください」
しっかりと自らの足で歩み始めたセーラさん。もはやベッキーさんの助けはなく、自分を呼ぶロッティの声も聞こえません。それでも彼女は、生きてゆこうとしているのです。
お嬢様と言われたセーラさん。今や、たいていのことは、ひとりでできるようになっていました。辛いメイドの経験が生かされる時が来たのです。買い物・掃除・洗濯・食事づくり。そしてピーターのお母さんの看護。
忙しい毎日が始まりましたが、もう苦しくはありませんでした。ここでは慎ましくもご飯が頂けて、いじわるも、怒鳴り声もありません。学院での暮らしに比べたら、夢のような今なのです。
マッチ工場にて
第42.5話
マッチ工場を営むマギーさん。セーラさんの事情を聞くと、二つ返事で雇ってくれました。ちょっと怖そうだけど、いい人のようです。
「よろしくお願いします。どんな仕事でもするつもりです」
「そうかい、いい心がけだね。それが一番大事だよ」
裏方の製造部門かと思ったら、いきなり外回りの販売部門担当へ。
「お前さんの器量じゃ裏方はもったいないからね」
早くも世間をひとつ知りました。また、同じく売り子のメアリーさんというお友達もできました。彼女もまた、たくましく生きる街の子なのでしょう。
「あなた、なんかいいとこのお嬢さんみたいに見えるけど?」
「ううん、そんなことないわ。これからいろいろ教えてね」
少しずつ、セーラさんの新しい世界は広がってゆきました。冬の深まりと共に・・・
はじめての仕事
第42.5話
一通り仕事を教わったセーラさん。メアリーさんに連れられ、いよいよ街に出て働き始めます。新しい暮らしが始まったのです。
「暖かいマッチはいかがですか」
思うようにマッチは売れません。働くからこそ生きられるということ。学院でのつらい日々ですら味わうことのなかった、厳しい現実です。
くじけず頑張るセーラさんでしたが、ただひとつ気がかりなのは、やはりベッキーさんのことでした・・・
「どんなに仕事が大変でも、今の私はご飯が食べられて、ひどい目にあわされることもないわ。でもベッキーは今も・・・」
雪のロンドン市街
第42.5話
学院の外にも今まで知らなかった世界がある。それを知っただけでもセーラさんは、また一回り大きくなったといえるでしょう。真冬を迎えるロンドン市街。テムズ川のほとりの雑踏の中、マッチ売りは続きます。
「マッチは、マッチはいかがですか」
ドナルド君との思わぬ再会に、心温まったのも束の間。道行く人々の反応は冷たく、たちまち小さな体は冷えきってゆきました。
かつて降りしきる雪の中、特別寄宿生として学院に入学するために訪れたロンドン。あの時はお父様が一緒でした。そして季節はめぐり、今また同じ雪景色を、このような境遇で眺めることになろうとは、どうして予想できたでしょうか。
それでも、強く生きようと心に決めたセーラさんは、歩き続けるのでした。寒空の下、学院が自分を探しているとは露知らず。
大きな運命の扉は、すぐそこまで迫っていました。
下町との別れ
第42.5話
凍えた体を温めるすべはありません。マッチを入れたケースにも、ただただ寒さに震える小さな肩にまでも、雪はしんしんと降り積もってゆきます。
細い路地で打ちひしがれていたその時、セーラさんに聞こえたのは急を告げるピーター少年の声でした。その先で彼女を待っていたのは・・・
逆らい難い運命は、ピーター家の人々の優しさも、マギーさんの温情も新しい友メアリーさんも、そしてセーラさん自身の決意までをも、あっさりと奪い取ってゆくのでした。
雪のやんだロンドン。セーラさんを乗せた馬車がゆっくりと走り去ってゆきます。
セーラさんの下町生活は、こうして唐突におわりを告げました。お世話になった人々・新たに関わった人たち、誰に対しても十分なお礼もお別れすらも言えずに・・・
苦難に満ちたセーラさんの1年間の中でも、この2週間は最も忘れがたい、濃密な時間だったのではないでしょうか。
クリスフォード氏の出現で運命が急展開するまであとわずか。セーラさんの苦しみも、まもなく終わります。
全てが幸せの下に集約した後、彼女の心にこの下町での日々が去来することはあるでしょうか。
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